はじめに
エンドツーエンド(End to End, E2E)テストは、システムの全体的な動作を検証するためのテストアプローチです。このテストの目的は、ユーザーの視点からアプリケーションの機能性を確認し、異なるコンポーネントがシームレスに連携して動作しているかを確認することです。E2Eテストは、ユニットテストやインテグレーションテストとは異なり、全体的なビューを提供し、システムが実際の環境でどのように動作するかを確認します。
さて、この記事では、現在主流となっているE2Eテストフレームワークとツールを紹介します。
1. Selenium
Seleniumは、ウェブアプリケーションの自動化テストをサポートするための一連のツールを提供するフレームワークです。Selenium WebDriverを使用すると、プログラムから直接ブラウザを操作することができます。これにより、ユーザーが行う可能性のあるすべての操作(クリック、入力、ドラッグ&ドロップなど)を自動化できます。また、Seleniumは多くのプログラミング言語(Java, C#, Python, Ruby, JavaScriptなど)をサポートしています。
メリット
- オープンソース: Seleniumは無償で使用でき、拡張や改変も自由に行うことができます。
- 言語に依存しない: Seleniumは複数のプログラミング言語(C#, Java, Ruby, JavaScript, PHP, Pythonなど)をサポートしています。つまり、特定の言語を使用しているQAエンジニアが、新しい言語を学ばずにテストを自動化することが可能です。
- 第三者ツールとの統合: Seleniumは多くの人気のあるツール(SauceLabs, Selenium-Grid, Extent, JUnitなど)と統合可能です。
- 並行テスト: Selenium Gridと統合することで、並行テストを実行することが可能です。
- クロスブラウザとプラットフォームに依存しない: Seleniumは全ての主要なウェブブラウザとOSをサポートしています。
- コミュニティサポート: Seleniumは大規模なコミュニティによりサポートされており、ツールやドキュメンテーションへの積極的な貢献があります。
デメリット
- 初期コストが高い: Seleniumは無料であるものの、ROIと初期コストを考えると、フレームワークのセットアップと設定には時間がかかり、これが初期コストを増加させる可能性があります。
実際に環境構築をされた方はわかると思いますが、ローカル環境で動かすにも様々なライブラリをインストールする必要があったりと構築することが多いです。 - 全てをカバーするソリューションではない: SeleniumはWebアプリケーションのテストを完全に自動化するための完全なソリューションではなく、第三者のライブラリや言語バインディングなどが必要です。
- ローカルテストインフラストラクチャの管理が難しい: Selenium Gridを使用すれば並行テストは可能ですが、追加のインフラストラクチャ(テストマシン)をセットアップして管理することは経済的に実行可能か、プロジェクトによっては要件が異なる可能性があります。
2. Cypress
Cypressは、JavaScriptで書かれたモダンなWebアプリケーション向けのエンドツーエンドテストツールです。Seleniumと比較すると、Cypressはテスト作成の容易さと速度に優れています。また、リアルタイムリロード、自動待機、スナップショットの取得など、開発者にとって有益な多くの機能を提供しています。
メリット
- 高速性: CypressはJavaScriptで動作し、ブラウザ内で直接テストを実行するため、Seleniumや他のE2Eテストツールに比べてかなり高速です。
- リアルタイムリロード: テストファイルが変更されると、Cypressは自動的にテストをリロードし、実行します。これはテストの作成とデバッグを容易にします。
- 待機の自動化: Cypressは各コマンドとアサーションで自動的に待つように設計されています。つまり、要素が表示されるまで待つ、Ajaxリクエストが完了するまで待つなどの明示的な待機は必要ありません。
- スナップショットとビデオ: テスト実行中にスナップショットを取得し、テストが失敗した場合にはビデオを記録します。これにより、問題の再現とデバッグが容易になります。
- 直感的なAPI: CypressのAPIは直感的で簡単に理解できるため、新規ユーザーでもすぐに使い始めることができます。
デメリット
- ブラウザのサポート: CypressはGoogle Chrome、Firefox、Microsoft Edgeの各種バージョンをサポートしていますが、Internet ExplorerやSafariなどの他の一部のブラウザはサポートしていません。
- 並列テスト制限: テストを並列に実行する機能はCypress Dashboard Serviceという有料サービスを通じてのみ利用可能です。しかし、オープンソースのランナーでは並列テストが制限されています。
- ネイティブイベントの制限: Cypressは現在、ネイティブイベント(例えば、ファイルのアップロードやダウンロード)を完全にサポートしていません。
- ウィンドウやタブの制限: Cypressは新しいウィンドウやタブを開く動作をサポートしていません。また、1つのテスト内で複数のタブまたはウィンドウを操作することはできません。
3. Puppeteer
PuppeteerはGoogle Chrome開発チームが作成したツールで、Chromeで手動で行うほとんどのアクションを自動的に処理できます。Webページを開いたり、リンクやボタンをクリックしたり、テキストフィールドにテキストを入力したりすることができます。
Puppeteerを使えば、アプリケーションのEnd-to-Endテストを行うのは、数行のコードを書くだけで簡単です。Puppeteerは特別な設定を必要とせず、Puppeteerをダウンロードすると自分のバージョンのChromeをインストールします。すでにインストールされているブラウザを使用したい場合は、puppeteer-coreパッケージをインストールできます参考。
メリット
- 実際のブラウザを使用: Puppeteerは実際のブラウザを使用してテストを行うことができます。これにより、ユーザーが実際にブラウザを使用しているときのユーザーエクスペリエンスをシミュレートすることができます。
- スクリーンショットとPDF: Puppeteerはスクリーンショットの取得やPDFの生成など、ブラウザの機能をフルに活用することができます。
- ネイティブChrome拡張機能: PuppeteerはChrome DevTools Protocolを通じてChromeと直接通信するため、Chromeの全機能を利用することができます。
- ヘッドレスモード: ヘッドレスモードを利用することで、テストの実行速度を向上させることが可能です12
欠点
- 学習曲線: Puppeteerは強力なツールである反面、その機能をフルに活用するには時間と労力を要します。
- ブラウザの制限: PuppeteerはChromeとChromiumに限定され、他のブラウザでは使用できません3
4. Playwright
Playwrightは、Microsoftによって開発されたブラウザ自動化ライブラリで、Chrome、Firefox、Safari、そしてMicrosoft Edgeといった異なるブラウザでのエンドツーエンドのテストを可能にします。これにより、ブラウザ間での互換性問題を早期に検出でき、同じテストスクリプトを複数のブラウザで実行できます。また、Playwrightはヘッドレス(ブラウザのUIを表示せずに)とヘッドフル(ブラウザのUIを表示して)の両方のモードで動作します。
メリット
- マルチブラウザのサポート: PlaywrightはChrome、Firefox、Safari、Edgeの4つのメジャーブラウザをサポートしています。
- ネイティブな入力イベントのサポート: Playwrightは、マウスのクリック、スクロール、キーボードの入力などのネイティブな入力イベントをエミュレートします。
- ネットワークのインターセプトと操作: Playwrightは、ネットワークリクエストのインターセプトと操作をサポートしています。これにより、テスト中にAPIレスポンスをモックしたり、リクエストのタイミングを制御したりすることが可能です。
- 完全なページナビゲーションコントロール: Playwrightは、ページの読み込み、リダイレクト、ポップアップ、フレームのナビゲーションを細かく制御することができます。
デメリット
- 新しいフレームワークであるため、他の一部のフレームワークに比べて学習資源やコミュニティのサポートが少ないかもしれません。
- サポートされているブラウザは多いものの、すべてのブラウザをカバーしているわけではありません。